「インテント」が標準になるとき：OIFはどのようにしてクロスチェーンの分断を終わらせ、Web3をユーザーの直感に戻すのか？

執筆：imToken

前回の「イーサリアム Interop ロードマップ」では、イーサリアム財団（EF）がユーザー体験の改善（Improve UX）のために、初期化、加速、最終確定という三段階の相互運用戦略を策定したことを紹介しました（関連記事「イーサリアム Interop ロードマップ：大規模採用の『最後の一マイル』をどう解決するか」）。

もし将来のイーサリアムが巨大な高速道路網だとすれば、「加速」と「最終確定」は路面の平滑さと速度制限の問題を解決しますが、その前に、より根本的な課題があります。それは、異なる車両（DApp/ウォレット）や異なる料金所（L2/クロスチェーンブリッジ）が全く違う言語を話しているという点です。

これこそが「初期化」段階で解決すべき核心問題であり、「Open Intents Framework（OIF）」こそがこの段階で最も重要な「共通言語」となります。

アルゼンチンの Devconnect では、EIL（イーサリアム互換レイヤー）が多くの議論を集めましたが、OIFはアプリケーション層とプロトコル層の間の重要な接着剤として、その重要性は全く劣らず、EILビジョン実現の前提条件でもあります。本日は、一見難解に聞こえますが、ユーザー体験に不可欠なOIFについて分解して解説します。

1. OIFとは何か？「指令」から「意図」へのパラダイムシフト

OIFを理解するには、まずWeb3のインタラクション論理において根本的な変化が起きていることを理解する必要があります。それは「指令」（Transaction）から「意図」（Intent）への転換です。

まず一般ユーザーの実際の課題から話しましょう。例えば、Arbitrum上のUSDCをBase上のETHに交換したい場合、現在のイーサリアムエコシステムでは、これは「操作のマラソン」を意味します。

まずウォレットで手動でArbitrumを選択し、あるクロスチェーンブリッジのコントラクトを承認し、クロスチェーントランザクションに署名し、さらに別のアグリゲーターを開き、Baseに渡ったUSDCをETHに交換します。全工程で自分でGasやスリッページを計算し、クロスチェーンの遅延やコントラクトリスクにも注意しなければなりません。一連の技術的な細部が積み重なった煩雑な手順であり、単純明快な要望の経路ではありません。

これが従来の「指令」モデルがWeb3でどう現れるかの例です。例えば空港までタクシーで行く場合、自分でルートを計画します——「左折して、500メートル直進、高架に乗って、出口で降りて……」。オンチェーンでも、ユーザーは一歩一歩手動で操作する必要があります。例えば、まずクロスチェーン、その後承認（Approve）、次に取引（Swap）というように。どこかでミスすれば、Gasを無駄にしたり、資産を失ったりする可能性もあります。

新たな「意図」モデルでは、こうした煩雑さを完全に省略できます。ユーザーは「空港に行きたい、50元払うつもり」とだけ伝えればよく、運転手がどのルートを選ぶか、どのナビを使うかは気にしません。結果さえ達成されれば良いのです。オンチェーンでも、ユーザーは「AチェーンのUSDCをBチェーンのETHに交換したい」という意図に署名するだけで、残りは専門のソルバー（Solver）が実行してくれます。

意図がこれほど優れているなら、なぜOpen Intents Framework（OIF）が必要なのでしょうか？

簡単に言えば、現在の意図市場は分断された「ワイルド・ウェスト」状態です。UniswapXは独自の意図規格、CowSwapも独自規格、Acrossも同様。Solverは何十ものプロトコルに対応し、ウォレットは何十ものSDKを統合しなければならず、効率が極めて低いのです。

OIFはこうした混乱を終わらせ、イーサリアム全体を対象とした標準化された「意図フレームワーク」を構築します。ウォレット、ブリッジ、Rollup、マーケットメイカー/solverに共通のプロトコルスタックを提供します——イーサリアム財団がAcross、Arbitrum、Hyperlaneなどの主要プロジェクトと共同で推進しているモジュラーな意図スタックで、単一のプロトコルではなく、汎用インターフェース標準のセットです。

OIFは「意図」がどのような形をとるべきか、どう検証し、どう決済するかを定めており、どのウォレット、どのDApp、どのSolverも同じチャンネルで会話できるようになります。複数の意図取引モデルをサポートするだけでなく、開発者はOIFを通じてクロスチェーンのダッチオークション、オーダーブックマッチング、自動アービトラージなどの新しい取引モデルを拡張できます。

2. OIFのコアバリュー：単なるクロスチェーンアグリゲーターではない

OIFと現在のクロスチェーンアグリゲーターは何が違うのでしょうか？

本質的な違いは標準化にあります。現在の多くのクロスチェーンアグリゲーターは、独自の意図フォーマットやブリッジ、ルーティング、リスク管理、監視を自前で用意したクローズドなシステムです。ウォレットやDAppが統合するには、それぞれのAPIやセキュリティ前提に個別に対応する必要があります。

OIFは中立的かつオープンソースの標準コンポーネントライブラリのようなもので、最初から「多者共創」の公共インフラとして設計されています。Intentデータフォーマット、署名方式、オークション/ビッディングロジックはすべて共通の決済・検証モジュールを採用しており、ウォレットやDAppは一度OIFを統合すれば、複数のバックエンド、複数のブリッジ、複数のsolverと接続できます。

現時点でもArbitrum、Optimism、Polygon、ZKsync、Acrossなど、イーサリアム主要L2やクロスチェーンブリッジ、アグリゲーターがOIF陣営に参加しています。

今日のイーサリアムエコシステムが直面する流動性の分断問題は、かつてないほど複雑です。L2が乱立し、流動性が分散、ユーザーは異なるネットワーク間を頻繁に切り替え、クロスチェーンや承認を強いられています。この観点からも、OIFの登場は単なるコードの美しさだけでなく、Web3の大規模採用に深いビジネス的・体験的価値を持ちます。

まずユーザー視点では、OIFの枠組み下で、ユーザーは自分がどのチェーンにいるかを意識する必要がなくなります。Optimism上でArbitrumのNFTを購入する取引を発行した場合、以前なら資産をクロスチェーンし、着金を待ち、ネットワークを切り替えてNFTを購入する必要がありました。

OIFを統合すれば、imTokenのようなウォレットはユーザーの意図を直接認識し、標準オーダーを生成、solverが自動で資金を立て替え、目的チェーンで購入を完了します。ユーザーは一度の署名だけで済み、これがいわゆる「チェーン抽象化」体験です。OIFはその体験を実現する基盤となる言語です。

同時に、全ネットワークの流動性を孤島化から解放し、グローバルに共有できます。今のイーサリアムL2の流動性は断片化しており、例えばUniswapのBase上の流動性はArbitrum上のユーザーに直接サービスできませんが、OIF標準（特にERC-7683）を通じて、すべての意図オーダーが世界共通のオーダーブックに集約できます。

プロのマーケットメイカー（Solver）は全チェーンの需要を同時に監視し、ニーズがあるところで流動性を提供できます。つまり、流動性の利用効率が大幅に向上し、ユーザーもより良い価格を得られます。

開発者やウォレットにとっても、一度統合すればどこでも使えるという大きなメリットがあります。imTokenのようなウォレットやDApp開発者にとって、OIFは大幅な負担軽減となり、各クロスチェーンブリッジや意図プロトコルごとに個別にアダプターを開発する必要がなくなります。

OIF標準を統合するだけで、イーサリアムエコシステム全体の意図ネットワークに即座に接続し、その標準に準拠したすべてのsolverをサポートできます。

3. OIFは今どこまで進んでいるのか？

前述の通り、イーサリアム財団の公開説明によると、OIFはEF Protocolチームが中心となり、Across、Arbitrum、Hyperlane、LI.FI、OpenZeppelin、Taikoなど多くのチームと共同で推進しています。2025年にはさらに多くのインフラやウォレットが議論やテストに参加する予定です。

最近のDevconnectでは多くの新しいコンセプトが注目を集めましたが、OIFのピースも着実に進展しています。主に標準策定とエコシステム連携の構築が進んでおり、今年のDevconnectのInteropメインステージは丸一日「intent、interoperability、account abstraction」をテーマに議論され、OIFも複数回関連アジェンダやPPTに登場し、将来のマルチチェーンUXの重要コンポーネントの一つと明確に位置付けられています。

現時点では一般ユーザー向けの大規模アプリケーションはまだありませんが、会議の密度や参加者の顔ぶれからも、コミュニティは基本的にコンセンサスを得ています——今後数年の「良いウォレット＋良いアプリ」は、OIFのような公共フレームワーク上でクロスチェーン能力を構築する可能性が極めて高いでしょう。

その代表例がよく話題になるERC-7683で、OIFで最も具体的な実装成果の一つです。Uniswap LabsとAcross Protocolが共同提案し、クロスチェーン意図の共通構造の確立を目指しています。

Devconnect期間中もERC-7683を巡る議論はさらに深化し、ますます多くの開発者、Solver、マーケットメイカーがこの標準への対応を強化しています。これはクロスチェーン意図取引がプライベートプロトコルからパブリックインフラへ移行していることを示します。

加えて、Interopシリーズのもう一つの主軸であるEthereum Interoperability Layer（EIL）とも連携しています。OIFは上層で「意図とUX」を提供し、EILは下層で「クロスL2の信頼最小化メッセージチャネル」を提供します。この両者が重なって、将来のイーサリアム相互運用スタックの重要な基盤となります。

イーサリアム財団はその中でコーディネーターでありコントローラーではありません。Protocol Updateなどの文書を通じて、EFはOIFを相互運用ロードマップの初期化段階に明確に位置付けており、市場に大きな信頼を与えています——意図（Intent）は一時的なバズワードではなく、イーサリアム公式の長期進化方針であると。

イーサリアム全体にとって、OIFは「相互運用」をホワイトペーパー上の概念から、再現可能・監査可能・大規模統合可能なエンジニアリング現実に押し上げています。将来ウォレットを使うとき、「何をしたいか」だけを伝え、「どのチェーン、どのブリッジを使うか」を悩まなくて済む変化に気付くかもしれません——それこそがOIFのような基盤インフラが密かに活躍している証拠です。

こうして「相互運用」の「初期化」パズルのピースが形になり始めています。

しかしEFのロードマップでは、意図を「理解」するだけでは不十分で、速く・安定して「走る」ことも必要です。次回のInteropシリーズ記事では、Devconnectの核心テーマであるEIL（イーサリアム互換レイヤー）を深掘りし、イーサリアムが「加速（Acceleration）」段階でどのようにパーミッションレスで検閲耐性のあるクロスL2信頼チャネルを構築し、すべてのRollupが「一つのチェーンのように見える」究極のビジョンを実現するのかをお届けします。

ご期待ください。